孫達のハロ―イン
ハロ―インの装束は、怖いものほど良いのだそうである。
ハロ―インの頃の、アメリカの町に出たことがあった。店頭に、気味の悪い髑髏を描いた黒い衣装や大きな蜘蛛の巣が掛かっていたり、西洋のおとぎ話に出てくる魔法使い、例の、長い箒を持ち、黒の長いぼろ着を着けた、やせ細って目は窪み、尖ったかぎ鼻の老婆が、行く手を遮っていたり、と、至る所で驚かされて、その気味の悪いこと、しかも、その中を大人に連れられた幼い子供たちが、喜々として、もっと奇抜なもの、もっとおどろおどろしげなコスチュウム、と捜し回って居るのである。どういった典故から出ているか知らないが、ハロ―インの夜には、子供たちがそれぞれそういった怖い衣装を付けて化け物になり、家家の扉を叩いて回る習慣があちらにあるのだ。来られた家では心得ていて、そのお化け達にと、キャンディを準備して上げる事になっている。
初冬の午後は暮れやすく、チャイムの音にドァを開けると、真っ暗闇の中に、骸骨ゃ妖怪など、気味の悪い装束を着けたのが立っているのは、それが習慣であるとは知っているものの実に気味悪くぞっとさせられて、私の憶病な妹などは、ハロ―インの夜は絶対に外出せず、家に居てもドァに近寄らないようにしている。そんな大人の様子も面白いし、キャンディも魅力、夜の屋外を人を威かしながらさまようのも楽しくて、これは子供等の大好きな習慣でもある。元来が子供を大切にするアメリカである上に、多分「厄よけ的」な意味があるらしく、以前はどの家でも喜んで迎え、ちゃんと子供等の好みそうなのを用意して待っていた。しかし、世の中がせち辛くなるにつれてキャンデイの質もだんだんと低下し、最近ではハロ―イン用の安いキャンデイで間に合わせているのが多いとか、それに、ある性格異常者がキャンディに毒を入れたとか言う噂まである。それこそ恐ろしい事である。
今年の、孫たちのハロ―インの様子をオ―バ―シ―電話で聞いた。
シカゴの次男の所では、長男のデリックが忍者になった。幼稚園での流行りなのか、その母親エミ―の日本趣味の影響か、デリックが、一番強くて他人に脅しの聞くものと思っているのは忍者、黒い布を頭からすっぽり被せ、目だけを出して首のところで緩く縛って忍者の出来上がり、去年のその夜は、雨の中を出かけて風邪を引き、肺炎になって入院までした。今日も雨で寒いから今年は行かせないつもりだと、昼間の電話でエミ―が言っていたが、帰宅した次男が、それでは子供が可哀そう、折角の楽しみなのに、と、よい父親ぶりを発揮して、夕食後連れていってあげたとの事、四十を越してもまだ悪戯っ気の抜けない次男、本当は彼自身が行きたかったのかも?
「デリック喜んだでしょう!でも風邪引かせたら怒られるわよ?」
「大丈夫」
「キャンディに毒が入れられた事があるそうよ」
「もう食べたよ、美味しくなかったけどね」
知っているのにわざと一つ食べて見る、何時までもしょうがない悪戯っ子の次男である。
ヒュ―ストンの次女の子パトリックは、大好きな今流行の玩具の虎の衣装。
「着せたら、とっても可愛かったのよ」
目を細めた、幸せそうな笑顔が見えてくるような、電話の中の甘い甘い母親の声。子煩悩の最である彼女の、息子自慢は聞き慣れている。
「キャンディは?」
「あんなの捨てましたよ!」
確かに、大事な大事な一粒種のパトリックにあんなキャンディを食べさせたか?とは愚問であった。
長女の一人息子フレディは今年は何もしなかったらしい、もうそんな事は彼には幼なすぎるのだろうか?私がまだ若かった頃のこと、丁度居合わせていた私に、「フレディのハロ―インの衣裳を作ってあげて」と長女が白い古シ―ツを出してきたことがあった。アメリカ生活にまだ日が浅く、どういったものを作ればよいのか、全然見当もつかなかったし、もともと裁縫の苦手な私なので断ったが、後で、あちらのお母さんが手際よくさっさと白いお化けの衣裳を作って上げたと言う事があった。一代で大財産を築き上げてしまうようなお人は、やっぱり、することがてきぱきして私なんかとは違う、と感心したものである。その方も、もう亡くなってしまった。その時のお化けの衣裳はその後、針仕事の出来ない長女の為に随分役立ってくれたらしく、フレディのハロ―インは何時も白いお化けであったという。二人の女の子、ジェニファ―とエンジ―は、幼かった頃、どうしていたのであろう、大学生と高校生になっている今の彼女等には、そんなの、もう興味もないであろうし、末っ子のフレディも、もうハロ―インには出ない年になったと言うことは、私の娘が母親としての一つの段階を越したということになる。それだけ娘が成長し、私達が年をとったということであろう。
ミシガンの長男の嫁は、六年生のキャサリンが、チアリ―ダ―、応援団や楽隊の行進でダンスをしている少女達の先頭を行くあのチアリ―ダ―に扮したと、娘の美しく少女らしくなった姿が嬉しそうな報告であった。アメリカ人の友達をうらやまらしがらせるほど手足がのびのびと長く、活発で、人目に立ちたがる彼女が好みそうな扮装である。
「アンドリュウが今年のハロ―インに何になったと思う?」
と、得意さを隠し切れないような声は長男からの電話、小学校四年生、日頃から漫画が好きで想像力が豊富、時々自分でも漫画のスト―リ―を描いて楽しんでいる彼の長男アンドリュウ、今年の怖いもの競演になんと「税務署の役人」に化けてしまった。なるほどこれは怖い!学校内でのハロ―インのパレ―ドで、アンドリュウの胸に着けた「税務署」という大きな札を見て、先生が「これが一番恐ろしい」とおっしゃったそうだ。人の意表を突いたその面白い発想に私も大笑い、アンドリュウも得意そうであったが、最も鼻を高くしたのはその父親であろう。
「アンドリュウの話しでは、クラスの生徒達は誰も、税務、と言う字を知らなかったそうだ、アメリカ人の子供たちは純真と言うのか世間知らずというのか?」とついでに報告。
「漫画なんか読んでいるから、そこからヒントを得たんだろうよ、はははは」
と、地球を半回りする長距離電話の代金を忘れたかの様に、笑い続ける親馬鹿振りであった。
そして、それに輪をかけた様な、お祖父さん馬鹿、お祖母さん馬鹿は孫達のハロ―インの事が面白く、さかんに友人や親戚達に自慢し回っていたのでありました。
一九九五.十一.十,
ハロ―インの頃の、アメリカの町に出たことがあった。店頭に、気味の悪い髑髏を描いた黒い衣装や大きな蜘蛛の巣が掛かっていたり、西洋のおとぎ話に出てくる魔法使い、例の、長い箒を持ち、黒の長いぼろ着を着けた、やせ細って目は窪み、尖ったかぎ鼻の老婆が、行く手を遮っていたり、と、至る所で驚かされて、その気味の悪いこと、しかも、その中を大人に連れられた幼い子供たちが、喜々として、もっと奇抜なもの、もっとおどろおどろしげなコスチュウム、と捜し回って居るのである。どういった典故から出ているか知らないが、ハロ―インの夜には、子供たちがそれぞれそういった怖い衣装を付けて化け物になり、家家の扉を叩いて回る習慣があちらにあるのだ。来られた家では心得ていて、そのお化け達にと、キャンディを準備して上げる事になっている。
初冬の午後は暮れやすく、チャイムの音にドァを開けると、真っ暗闇の中に、骸骨ゃ妖怪など、気味の悪い装束を着けたのが立っているのは、それが習慣であるとは知っているものの実に気味悪くぞっとさせられて、私の憶病な妹などは、ハロ―インの夜は絶対に外出せず、家に居てもドァに近寄らないようにしている。そんな大人の様子も面白いし、キャンディも魅力、夜の屋外を人を威かしながらさまようのも楽しくて、これは子供等の大好きな習慣でもある。元来が子供を大切にするアメリカである上に、多分「厄よけ的」な意味があるらしく、以前はどの家でも喜んで迎え、ちゃんと子供等の好みそうなのを用意して待っていた。しかし、世の中がせち辛くなるにつれてキャンデイの質もだんだんと低下し、最近ではハロ―イン用の安いキャンデイで間に合わせているのが多いとか、それに、ある性格異常者がキャンディに毒を入れたとか言う噂まである。それこそ恐ろしい事である。
今年の、孫たちのハロ―インの様子をオ―バ―シ―電話で聞いた。
シカゴの次男の所では、長男のデリックが忍者になった。幼稚園での流行りなのか、その母親エミ―の日本趣味の影響か、デリックが、一番強くて他人に脅しの聞くものと思っているのは忍者、黒い布を頭からすっぽり被せ、目だけを出して首のところで緩く縛って忍者の出来上がり、去年のその夜は、雨の中を出かけて風邪を引き、肺炎になって入院までした。今日も雨で寒いから今年は行かせないつもりだと、昼間の電話でエミ―が言っていたが、帰宅した次男が、それでは子供が可哀そう、折角の楽しみなのに、と、よい父親ぶりを発揮して、夕食後連れていってあげたとの事、四十を越してもまだ悪戯っ気の抜けない次男、本当は彼自身が行きたかったのかも?
「デリック喜んだでしょう!でも風邪引かせたら怒られるわよ?」
「大丈夫」
「キャンディに毒が入れられた事があるそうよ」
「もう食べたよ、美味しくなかったけどね」
知っているのにわざと一つ食べて見る、何時までもしょうがない悪戯っ子の次男である。
ヒュ―ストンの次女の子パトリックは、大好きな今流行の玩具の虎の衣装。
「着せたら、とっても可愛かったのよ」
目を細めた、幸せそうな笑顔が見えてくるような、電話の中の甘い甘い母親の声。子煩悩の最である彼女の、息子自慢は聞き慣れている。
「キャンディは?」
「あんなの捨てましたよ!」
確かに、大事な大事な一粒種のパトリックにあんなキャンディを食べさせたか?とは愚問であった。
長女の一人息子フレディは今年は何もしなかったらしい、もうそんな事は彼には幼なすぎるのだろうか?私がまだ若かった頃のこと、丁度居合わせていた私に、「フレディのハロ―インの衣裳を作ってあげて」と長女が白い古シ―ツを出してきたことがあった。アメリカ生活にまだ日が浅く、どういったものを作ればよいのか、全然見当もつかなかったし、もともと裁縫の苦手な私なので断ったが、後で、あちらのお母さんが手際よくさっさと白いお化けの衣裳を作って上げたと言う事があった。一代で大財産を築き上げてしまうようなお人は、やっぱり、することがてきぱきして私なんかとは違う、と感心したものである。その方も、もう亡くなってしまった。その時のお化けの衣裳はその後、針仕事の出来ない長女の為に随分役立ってくれたらしく、フレディのハロ―インは何時も白いお化けであったという。二人の女の子、ジェニファ―とエンジ―は、幼かった頃、どうしていたのであろう、大学生と高校生になっている今の彼女等には、そんなの、もう興味もないであろうし、末っ子のフレディも、もうハロ―インには出ない年になったと言うことは、私の娘が母親としての一つの段階を越したということになる。それだけ娘が成長し、私達が年をとったということであろう。
ミシガンの長男の嫁は、六年生のキャサリンが、チアリ―ダ―、応援団や楽隊の行進でダンスをしている少女達の先頭を行くあのチアリ―ダ―に扮したと、娘の美しく少女らしくなった姿が嬉しそうな報告であった。アメリカ人の友達をうらやまらしがらせるほど手足がのびのびと長く、活発で、人目に立ちたがる彼女が好みそうな扮装である。
「アンドリュウが今年のハロ―インに何になったと思う?」
と、得意さを隠し切れないような声は長男からの電話、小学校四年生、日頃から漫画が好きで想像力が豊富、時々自分でも漫画のスト―リ―を描いて楽しんでいる彼の長男アンドリュウ、今年の怖いもの競演になんと「税務署の役人」に化けてしまった。なるほどこれは怖い!学校内でのハロ―インのパレ―ドで、アンドリュウの胸に着けた「税務署」という大きな札を見て、先生が「これが一番恐ろしい」とおっしゃったそうだ。人の意表を突いたその面白い発想に私も大笑い、アンドリュウも得意そうであったが、最も鼻を高くしたのはその父親であろう。
「アンドリュウの話しでは、クラスの生徒達は誰も、税務、と言う字を知らなかったそうだ、アメリカ人の子供たちは純真と言うのか世間知らずというのか?」とついでに報告。
「漫画なんか読んでいるから、そこからヒントを得たんだろうよ、はははは」
と、地球を半回りする長距離電話の代金を忘れたかの様に、笑い続ける親馬鹿振りであった。
そして、それに輪をかけた様な、お祖父さん馬鹿、お祖母さん馬鹿は孫達のハロ―インの事が面白く、さかんに友人や親戚達に自慢し回っていたのでありました。
一九九五.十一.十,

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